すみません!私を貝にしてください!【潮吹きジョニー】











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『すみません!私の貝になってください』
プロローグ
「すみません! 私の貝になってください!!」
そう叫んだ瞬間、校庭にいた生徒たちが一斉にこちらを振り向いた。春の風が吹き抜ける昼下がり、私は全力で土下座する。
目の前には、黒髪のロングヘアを靡かせ、凛とした表情で私を見下ろす生徒会長・海野(うみの)先輩。校内でも圧倒的なカリスマを誇る彼女は、何事にも動じないクールな性格で、通称「氷の人魚」と呼ばれている。
「……貝になれ、とは?」
静かで低い声が、私の鼓膜に響いた。
ああ、もう逃げられない。やるしかない……!
第一章:貝の誓い
事の発端は、私――渚(なぎさ)のとある‘失態’だった。
美術部に所属する私は、先輩をモデルに絵を描こうとしたのだが、どうしても彼女の「本質」を捉えられなかった。どんなに筆を走らせても、ただの美しい肖像画にしかならない。
そこで思いついたのが、「貝になること」。
「つまりですね、貝って、外から見たら無口で何も語らないけど、内側には真珠を隠しているじゃないですか。だから私は、先輩の貝になって、先輩が普段見せない本当の姿を引き出したいんです!」
……と、熱弁した結果、今こうして公衆の面前で土下座する羽目になった。
先輩はしばらく沈黙した後、ため息をついた。
「……なるほど。面白い発想ね」
「ということは……!」
「ただし、条件があるわ」
海野先輩はスッと私の顎を持ち上げ、冷たい笑みを浮かべる。
「貝は簡単に口を開かない。だから、私の秘密を知りたいなら、あなた自身も‘閉じた貝’になりなさい」
「え、どういうことですか?」
「私のそばにいて、私を観察するのは許す。でも、決して他言無用。私のことを誰にも話さず、静かに見守ること。できるかしら?」
「……やります!!」
こうして私は、生徒会長の‘貝’としての任務を負うことになった。
第二章:氷の人魚の素顔
生徒会室で先輩の仕事を手伝ったり、放課後の屋上で彼女の一人の時間を邪魔しないよう見守ったり、貝としての役割はなかなかに地味だった。
だが、少しずつ分かってきたことがある。
――生徒会長としての彼女は完璧だが、その裏では「本当の自分」を誰にも見せていないこと。
――疲れている時ほど、校庭の小さな池の前でぼんやりと佇んでいること。
――誰もいない場所では、寂しそうに海を眺めていること。
ある日、私は勇気を出して聞いた。
「先輩、本当は寂しいんじゃないですか?」
すると、先輩は私をじっと見つめ、ふっと微笑んだ。
「……貝のくせに、口を開くのね」
「す、すみません!」
「いいわ。その代わり……あなたにだけなら、少しだけ本音を話してもいい」
そう言って、先輩は静かに語り出した。
「私はね、ずっと‘氷の人魚’として扱われてきた。でも、本当は……」
初めて聞く、彼女の心の内。
その瞬間、私は確信した。
――先輩の‘真珠’は、きっと誰よりも美しい。
第三章:貝と人魚の関係
先輩のそばで過ごす時間が増えるにつれ、私は気づいてしまった。
好きだ。
最初は、ただ彼女のことを知りたいと思っていただけだった。でも今は、彼女のためならどこまでも貝になって、どんなことがあっても守りたいと思ってしまう。
だけど、私の気持ちを伝えてしまえば、先輩の貝としての役目は終わるのかもしれない。
どうすればいい?
悩んでいたある日、先輩がぽつりとつぶやいた。
「ねえ、渚」
「はい?」
「そろそろ……貝の殻を開いても、いいんじゃない?」
「……え?」
先輩は優しく微笑む。
「あなたが私の貝なら、私はあなたの真珠なのかもしれないわね」
心臓が跳ねる。
これは……もしかして……!?
「……私が貝なら、先輩は‘私の真珠’です!」
すると先輩は、少し困ったように笑った。
「違うわよ。あなたが私の貝なの」
「えっ!? じゃあ、先輩の真珠は!?」
「それは、あなたが見つけて」
そう言って、そっと私の手を握る先輩。
その手の温かさが、私の胸の奥にまでじんわりと広がっていった――。
(完)
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